七尾湾能登かき祭への参加と、奥能登の厳しい冬の日本海を体感するために
大学仲間と行く能登の旅のトップランナーにふさわしい急行能登号。
北行き夜行を待つ上野の夜っていうのはいいものだね。
上野発は23時33分。
時間に余裕があったので上野の街をぶらつく。
ガード下の大統領という店のモツ煮が気になってしょうがなかったけど
初心者にはちょっと難易度が高い雰囲気で、モツだけに断腸の思いで断念。
急行能登号は、間近で見ると外装が剥げ錆が浮いており、往年の国鉄型急行の歴史を物語る。
中に入ってしまえば、好対照にメンテナンスが行き届いており快適だった。
夜行列車や長距離フェリーなど、乾燥した車内で風邪を引かないように
顔の上に濡れタオルという異様な容姿に、メンバーから生あたたかい突っ込みを受ける。
効果あるのだよ、この方法は。
急行能登号は夜の高崎線を北上し、上越国境のトンネルを抜けるとやがて雪になった。
座席に横になったり、通路に足を投げ出してみたりと数多の試行錯誤の末
途中何度かうとうとはしたものの、寝たという実感がほとんどないままに
急行能登号は寒暁の日本海を望み、やがて金沢駅のホームに滑り込んだ。
かつて大垣夜行やムーンライトを使った旅を思い出す、これぞ座席夜行。
早朝の近江町市場を徘徊して、北陸金沢らしい朝食を食べれる場所を探したものの
やっぱり朝早すぎてやっておらず、スターバックスで軽食を取る。
ここからはレンタカーで一路、能登中島駅へと向かう。
うーん、能登はいい。
日本の中でも特に日本を強く感じることができる気がするよ
近くまでやってくると、かき祭のノボリが道ばたに目立つようになってきた。
そう。能登中島駅前こそ今回の「七尾湾能登かき祭」の会場だ。
牡蠣焼きの香ばしい香りが漂う会場は、牡蠣を求める人たちで大賑わいだ。
いてもたってもいられず、夢にまで見たかき祭に興奮を抑えきれず走り出した。
ずらっと並ぶ炭焼き台で殻付きの牡蠣を焼き、アツアツを口に放り込む。
ちゅるんッ。
はぁ、サイコウ。
途中、松本清張「ゼロの焦点」で有名なヤセの断崖に立ち寄るが、
先般の地震が崖を崩し、形がまったく変わってしまったそうだ。
能登らしい雰囲気が色濃く残る奥能登、皆月の集落に行けば
冬の能登の寒く暗い雰囲気を存分に堪能できそうだと峠を越える。
皆月の集落は、海からの強風に身を縮めて肩を寄せ合っているように感じた。
もちろん人は歩いていないし、家に灯も灯っていないように見える。
五十洲から先の道を進むと、奥能登の秘境、猿山岬灯台へと至る。
婆婆捨峠とは、字面がまた日本海のモノクロームと相まって暗い。
この頃には雪は強風に煽られ横に降り、観光という気分では無くなってきた。
冬の厳しい日本海の雰囲気に包まれて、ついに1人が発狂。
宿へ、早く宿へ行こう!
夏に来た時は今いちぴんと来なかった間垣も、今ならその存在意義がよくわかる。
これがないと、どうしようもないのだ。
車も通らず、左手は荒々しい冬の日本海。
色彩がない世界というのはここまで暗いものなのか。
あまりにも厳しい冬の奥能登の雰囲気に気圧され、不安で車内が満たされる。
宿は今回の旅にふさわしい「民宿漁火」
携帯は圏外、テレビもない囲炉裏の宿だ。ここまでお誂え向きな宿もまたない。
ところがカーナビが案内した目的地は人家が見当たらない崖に張り付く道路の上。
携帯が通じないのでどこに宿があるのだと、必死に探す。
え、崖の下に道みたいなのが見える!
細く恐ろしく急勾配の道が頼りなく崖下へと続き、その先に民宿漁火はあった。
よく皆月側から辿り着けたねぇ、と宿の人が出迎えてくれた。
冷えた体に風呂が染みる。
風呂上がりの食事が最高だったのだ。
いしる鍋に寒ブリの刺身、焼き魚に酢の物。
寒ブリってこんなにうまいの!?
ご飯もまた最高においしかった。
この食事のためだけに、また泊まりに来たいと思える素晴らしい内容だ。
求めていたのはまさにこういう宿だよ。
囲炉裏端に座っていると、とても満たされた気分になる。
外では雪がしんしんと降り積もり始めた。
明日は大丈夫なんだろうか、と一抹の不安を抱え
風の音と波の音を感じながら眠りに着いた。
続く。
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