モクズガニは、日本各地の河川で見ることができる淡水性のカニで
各地で漁が行われ、雌が卵を抱く秋から冬に掛けて特に美味となる。
ちょっと可哀想だけど、生のまますり鉢で潰し、水で殻を漉して火に掛けると
熱でパッと花が咲いたように身が固まり、旨味の効いた汁ができる。
房総半島、富津市で古くから食べられている郷土料理「かにこ汁」だ。
蛇足だが、モクズガニにはフクロムシが寄生していることがあり
雄がこれに寄生されると寄生去勢され、雌化してしまう。
雄に取り付き、その身体すら雌化させることで強制的に抱卵行動せしめ
卵もといフクロムシの繁殖を手助けするよう仕向ける驚きの習性は
同様に宿主をコントロールするハリガネムシやレウコクロリディウムにも通ずる。
なお、この寄生虫は、人を終宿主とするウェステルマン肺吸虫の
中間宿主となるため、調理の際は必ず火を通す必要がある。
この事実を知ってなお、今回はこれを求めて房総へ行こうという魂胆。
東京湾フェリーは、昨今の高速道路割引攻勢によって
かなり窮地に立たされてる感がひしひしと伝わってきた。
ターミナルでは「高速道路無料化反対」の署名を集めていたし
実際に乗客や車両の少なさといったら、今日は土曜なのに。
仮に廃止されるようなことがあれば、アクアラインに乗れない原付で行く房総は
東京湾を一周しなけりゃならなくなって、日帰りでは行けない場所になってしまう。
それにアクアラインで行く房総って、つまんないんだよな。
フェリーって旅情があるから大好きなんだよ。
東京湾フェリーは応援したい。
フェリーの先行きを憂いているうちに金谷港へ接岸。
今回は埼玉からは、異彩を放ちまくる通称ハンターカブが参戦。
サブタンクまで備えたその変態的な出で立ちに、一同大興奮だ。
とりあえず朝食を食べようと、近年その支持層を確実に拡げている
竹岡ラーメンの元祖「梅乃家」へ向かったものの、まだ開店前。
それならもう迷うことはない。
目指すは「ニコニコドライブイン」だ!
横文字の店名と外観のアンバランスさが心をくすぐる。
草臥れた雰囲気はむしろ昔日の大衆食堂を思い起こさせ
メニューの安さ、飾らない家庭的な味と共にとっても好印象だ。
さあ、
モクズガニと対面するまでには、まだ時間があるぞ。
やってきたのは、通称「T秘境」と呼ばれる渓谷。
見慣れた人も数多いこのトンネルは、渓谷壁を穿ち渓谷内部へと通じる。
渓谷を流れてきた水もまた、すぐ横にある川廻しのトンネルから流れ出ている。
トンネルを抜けてしばらく歩くと、道は川へ没する。
ここから、秘境が始まるらしい。
持ってきたサンダルに履きかえ、ここからは水と相見えながら川を遡上していく。
癒される光景、森林浴には絶好だ。
川は、長年の間に水流に削られ滑らかになった岩盤の上を流れ
ところどころ深みがあるものの、それ以外の場所の水深はごく浅い。
あまり見たことのない、独特の地勢だ。
実はずっと、歩きながらモクズガニがいないか注意を払っていた。
唯一見つけたカニはモクズガニではなさそうだったけど、小さくて可愛かった。
さらさらと川床を洗う水が、落ち葉を運んでくる。
渓谷は途中、分岐を伴いながら奥深く続き
奥部では、川廻しのトンネルから流れ出た水がプチ袋田の滝を形成していた。
ロープが引き回されていたけれど、川床は滑りやすく
沢登りをしてまでその先へ行くのは断念した。
徒党を組んで、四駆でここへ乗り込むような人間もいるようだが
ここは貴重な渓谷であると共に、付近住民の水源地にもなっている。
モラルを守って、自分の脚で静かに訪れたい。
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