信州は戸隠へ、紅葉を見に出かけた。
戸隠は、ずっと行きたかった憧れの場所。
戸隠は長野県の北端部に位置し、横浜からだとかなり距離がある。
これを日帰りでこなすために、日が変わってすぐの0時15分に自宅を出発した。

行きは高速は使わないと決めていたので、ひたすら夜の甲州街道を西へ向かう。
この季節、山間部の冷え込みは想像以上だ。
冷え込んだ空気を切り裂き、次から次へと姿を現すワインディングを切り捨てながら、山間の狭隘路を進む。
韮崎からは国道141号を使い北上、小諸まで抜ける。
車通りのほとんどない道を、徐々に標高を上げながら進む。
それにしても寒い。足や手が意思に反してガクガクと震える。
甲府で12度だった気温は、標高1350mの野辺山で遂に4度まで下がった。
寒さを見越してマフラーまで巻いた冬装備で望んだが、露出部は寒さで痛い。
国道141号は完全なる闇に包まれ、バイクの放つライトだけが唯一の灯かりだ。
淡い光に照らされた闇の中から次々と霧が現れ、夜間飛行しているような気分になる。

小諸が近くになるに連れ、徐々に東の空が白み始めた。
朝がやってきた。
群青から瑠璃へ浅葱へ、千曲川が変わりゆく空の色を映し、たおやかに流れる。

このまま戸隠へ向かうには時間が早すぎたので、姨捨駅へ寄ってみる。
駅のそばにある冠着山には姨捨伝説が伝わり、駅名のルーツになっている。
そんな暗い伝説に反し、駅からの長野盆地(善光寺平)の眺めは素晴らしい。

戸隠は、篠ノ井や千曲といった南からのアクセスが非常に悪く、
道が迷路のように入り組んでいる為迷ってしまい、時間をかなりロスした。
ツーリングマップルで県道表示となっている県道86号戸隠篠ノ井線。
探せど探せど、入り口を見つけられない。
もしかして・・・?と思って入った集落の細い路地がそれだった。
あまりに細くて、前を行ったり来たりしていたがずっと通り過ぎていたのだ。
この道、県道というより林道だね。それこそ歩道と見まごうほどの細さになったりする。

信州のなだらかな山合に、小さな集落が点々と散らばっている。
萱葺き屋根の旧家、たわわに実る柿の木、神社、道祖神、紅に彩られた木々、
分校、消防自警団、雑貨家、畑、焚き火の煙と香り、日向ぼっこしているお婆ちゃん。
日本人の心に深く沁み入る日本の里山の原風景がそこには息付いていた。
主要道にはない素朴な集落を幾つも繋ぎ、県道86号は戸隠へと至る。

峻険な戸隠連峰を背に佇む鏡池。
一昨年、NHKで放送された単発ドラマ「楽園のつくりかた」を観て以来、
強く印象に残った戸隠の美しさが気になっており、ようやく念願がかなった。

前情報を頼りに来たものの、紅葉は想像していたより鮮やかに染まってはいなかった。
それでも、この鏡池周辺はそれなりに紅葉が進んでいて、非常に美しかった。
真っ赤に染まる紅葉もいいけれど、緑や黄、朱が混じりあう紅葉はとても美しい。

戸隠といえばやばり蕎麦であり、蕎麦屋はたくさんある。
いちばん人気は「うずら屋」らしく、行列ができている。

冷たい汁かけそばの上に、キノコや旬野菜の天ぷら、山菜、それに大根おろしなどたくさんの具が乗った蕎麦。
こしがあり、飾らない田舎風でもあり、さりとて上品で、何より美味。
わさびは戸隠産の生わさびを自分でおろす。天ぷらは、ごま油の香ばしい風味が良い。

戸隠神社奥宮の参道は長く、この道を奥宮まで1時間ほど歩かなければならない。
泊りがけならともかく、日帰りで時間もないので雰囲気だけ堪能。

ハラハラと落ちる落ち葉も秋の良さ。
苔の絨毯に落ち葉が敷き詰められていた。

戸隠からの帰り、去りゆく錦秋の山々の美しさに自然と目頭が熱くなった。
深まる秋、色とりどりの紅葉に彩られた信州。
日本の四季はこんなにも美しい。

暮れゆく夕日が空を染め上げる薄暮。
紫藍色の八ヶ岳が、旅の最後を彩る。
日本の美に触れた今回のツーリングが、まもなく終わりを迎える。
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