風薫る、秋

ふっと微かに、風に運ばれて金木犀の優しい香りがした。
ああ、今年もこの季節がやってきた。

久しぶりの信州行きは、松本経由というマンネリからの脱却を図り
高崎から草津、渋峠を越え湯田中へ至る草津白根道路経由を選定。

高速を降り、山間部へ向けて走っていると朝霧に煙る棚田が見えた。

水墨画のような草津白根道路を駆け抜け、ツアー客だらけの湯釜を見物し
渋峠で雨に打たれながらリフトに乗り冷え切った身体を湯田中温泉で温める。

そのまま秋の気配漂う長野平野を飯山へと向かうと
着く頃には、ちょうどいい具合に昼時になった。

下調べをしていなかったので、携帯で「おいしい そば 飯山」で検索すると
市街地から少し行ったところに「はしば食堂」という蕎麦屋があるらしい。

決めた!
と走り始めると、少し行ったところではなくだいぶん離れちょっと不安になった頃
こんな山の中に蕎麦屋が、と思わせる集落に、はしば食堂はあった。

人の家に入って行くようで気が引けながらもお邪魔すると
人のいい元気なお婆ちゃんがひとり、店を切り盛りしていた。

席に着くとまずおかずが並べられる。一席で200円だが、このおかずがよかった。
信州の田舎らしく塩っ辛い漬物も、甘すぎないかぼちゃも、どれもとても素朴だ。

田舎の親戚の家に来たようで、居心地がいい。

しばらく待つと、普段見るのとは少し趣きの違うそばが出てきた。

富倉そばと呼ばれるこのそばは、つなぎにオヤマボクチ(山ごぼう)を使い
一部のそば好きからは幻のそばと呼ばれている、と知った。

一口食べると、その違いに気づく。
どことなくとろろそばのような、独特のまろやかな喉越しの良さと風味がとてもおいしく
なるほど、確かにこれは普通の蕎麦とは一線を画すはじめて食べる蕎麦や!

壁には切り抜きが貼られ、緒形拳が蕎麦を食べている記事があった。
その横には、笑福亭鶴瓶のNHK「鶴瓶の家族に乾杯」のサインが。

お婆ちゃんに聞いてみると、先日撮影があって、まさに今夜放送されるらしい。
なんていうタイミング。
こういう店こそそっとしておいて欲しいと思うんだけどね(笑)
(帰ってから番組を見たが、店もお婆ちゃんも、そしてあの蕎麦ももちろん放送された)

おいしい蕎麦とお店に出会っていい気分になった後は
寺町で知られる飯山の町を、レンタサイクルで寺巡り。

久しぶりに自転車を漕いでいると、風にふわり金木犀の香り。

決して大きい町ではないのに、とにかくお寺だらけ。
仏壇も有名らしく、とても趣きのある町だった。

帰り道は、ジンギスカンで有名な信州新町経由にし
目星をつけていた「レストランむさしや」は定休日だったため「ろうかく荘」へ。

テラス席で、暮れなずむ景色を見ながらのジンギスカンはまた格別だった。

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